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「切断面」の黙示録朝日新聞編集委員・大西若人

幅2メートルほどもある大画面に次々と現れるのは、「切断面」ではないのか。広告写真や原発を撮った連作で知られる写真家・広川泰士の98年から2014年までの作品24点に、そう感じる。

では一体何の切断面なのだろうか。例えば、「Shinjuku Tokyo August」高架のさらに上に建設される高架道のむき出しの切断面が虚空を突く。

美しいとすらいえる造形は、しかし暴力的で、見る者をたじろがせる。出品作の約3分の1は、こうした巨大プロジェクトの工事現場だ。

そこには、文字どおりの切断面が存在するが、それを告発調ではなく、淡々と、美しい色調と見事なディテールで表現していく。客観に徹しているがゆえに、胸にしみる。

ビルの解体現場でも、壁が崩れて現れた建物の切断面をとらえ、東日本大震災などの被災地では途切れた道路や橋を写す。

未来に向かう瞬間と、過去が断ち切られた結果が、見かけ上は切断面とゆう場で交差する。

一方、福島第一原発近くの帰還困難区域の、封鎖された道路や、草に覆われてしまった線路の写真もある。物理的な切断面ではないが、暮らしや時が断ち切られていることは明らかだ。

広川がとらえた切断面から導かれるのは、人類の暴力性を帯びた、しかし地球の悠久の時間の前では実にちっぽけな行為と、そのズレの結果といえる。

展覧会を「BABEL」と題し、展示を、究極の「時の切断面」ともいえる墓地の写真で終えているのも、暗示的だ。